vol.53

父母は習慣の教師なり
社団法人 日本図書教材協会会長
菱村 幸彦

子どもは親の鏡――という。子どもは親の背中を見て育つから、どうしても親に似る。このことは子どもの学力形成にも言えるようだ。

過日、文部科学省の全国学力調査の分析に関する専門家会議において浜野隆准教授(お茶の水女子大学)の「家庭背景と子どもの学力等の関係」という研究が報告された。この研究で興味深いのは、保護者の日常的な行動が子どもの学力に関係していることを統計的に示したことだ。

例えば、「本(マンガや雑誌を除く)をよく読む」「新聞の政治経済欄を読む」「テレビのニュース番組をよく見る」「家で手作りのお菓子をつくる」「クラシック音楽のコンサートへ行く」「美術館や美術の展覧会へ行く」「政治経済や社会問題に関する情報をインターネットでチェックする」「学校の行事によく参加する」「パソコンでメールをする」――などを行う保護者の子どもは、学力が高い傾向にある、というのだ。

浜野准教授は、これらの行動を家庭の文化を表すものと捉え、家庭の文化が学校文化により近いほど子どもの学力も高い傾向が読み取れると分析している。

これは教育社会学でいう「ハビトゥス」の問題であろう。ハビトゥスとは、態度・習慣などを意味するラテン語であるが、教育社会学では、「家庭や学校で長い時間をかけて無意識裡に形成され日常的な慣習行動をもたらす血肉化された持続する習慣」(竹内洋)をいう。ハビトゥスは、人の学習活動や言語活動などに大きな役割を果たす。

いうまでもなく、子どものハビトゥスは、親のハビトゥスの影響を受ける。本をよく読む親の子どもは、自然に読書好きになる。政治経済のニュースを話題にする親の子どもは、政治経済に関心をもつようになる。美術を愛する親の子どもは美術を楽しむようになる。

福沢諭吉は、「一家は習慣の学校なり、父母は習慣の教師なり」と言っている。子どもの学力も家庭の習慣に深く関係している。

〜図書教材新報vol.53(平成21年9月発行)巻頭言より〜