vol.22

教科書使用の自己評価と他者評価
財団法人 図書教材研究センター副理事長
上越教育大学名誉教授
新井 郁男

かつて教科書研究センターで、小・中学校における「教科書の利用と改善に関する調査」を行ったことがあるが、考えさせられる結果がみられた。

授業での教科書の使い方について、「一般的にどのように考えている先生が多いと思いますか」という問い(他者評価)と、「先生自身はどのように考えておられますか」という問い(自己評価)をしたところ、両評価の間に大きな違いがみられたのである。

教科書の使い方についての考え方としては、

A.
授業では教科書を教えればよい
B.
教科書で授業を進めればよい
C.
教科書にとらわれなくてもよい

その回答結果で考えさせられたのは、「授業では教科書を教えればよい」と考えている教師は、自己評価では2%にすぎなかったが、他者評価では21.5%であったことである。

これは国語、社会、算数・数学、理科、英語(中学校)について教科毎に質問した結果の平均であるが、教科間にそんなに大きな違いはなく、自己評価と他者評価の間にギャップがあるという傾向は教科を超えて共通にみられたのである。

教科書は我が国では、教科用図書であり、「主たる教材」と位置づけられているが、その望ましい使い方は、「教科書を教えるのではなく、教科書で教える」という象徴的な言葉で表現されていることに照らしていうならば、教師は自己評価に甘く、他者評価に辛いということになる。

一方、「授業では教科書にとらわれなくてもよい」という問いへの回答をみると、他者評価では12.1%であるのに対して、自己評価では50.4%となっている。「授業は教科書にとらわれなくてもよい」とする教師が、「教科書で授業を進めればよい」とする教師を上回っていることは驚きであった。

詳しい論評をする紙幅の余裕はないが、気になるのは、他者評価がいかなる根拠に基づいているかということである。まだまだ各教師はそれぞれの蛸壺にいるのであろうか。

〜図書教材新報vol.22(平成19年2月発行)巻頭言より〜